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目指すところ

  • がん細胞の多様性を正確に記述し、がん細胞が多様であることの意義やその多様性が形成される分子メカニズムを解明することで、がんの本質を理解したいと考えています

がん細胞の多様性を理解する

シングルセル解析

私たちの研究室では「がん細胞の多様性を理解し、新しい視点からのがん医療を提供する」ことを目標に掲げ研究を行っています。がんは均一なクローンの細胞集団ではなく、実際は多様な細胞から構成されており、治療などの外部の環境変化に対して、細胞集団全体で適応する能力を持っています。この多様性と適応能力が、がんの治療を難しくさせている一因です。私たちはがんに含まれるがん細胞の多様性を正確に評価することで、患者ごとの腫瘍の特徴の違いを理解することを目指しています。さらに、がん細胞が多様であることの機能的意義や、その多様性が生じるメカニズムを明らかにしたいと考えています。この多様性こそががんの本質であり、その理解が全く新しい治療戦略を生み出すカギになると考えています。

がんの多様性を研究するための研究体制と技術基盤

がんの多様性を深く理解するためには、実際の患者さんの腫瘍を直接かつ精密に調べることが不可欠です。それを実現するための研究体制と技術基盤を整備してきました。従来のアプローチでは、患者さんから取得した検体を凍結保存し、そのあとで病理解析やゲノム解析、RNA解析を行うのが一般的でした。私たちの研究室では、検体を生きた細胞の状態で凍結保存し、それを用いてエピゲノム解析や単一細胞解析を実施する、あるいはそこからオルガノイド培養株を樹立して実験に利用する、といった技術基盤を整えてきました。この基盤を活用して、がんの多様性を理解するための研究を進めています。

臨床検体からのオルガノイド樹立と解析

リバースTRのアプローチ

リバースTRのアプローチ

リバースTRとはTR(Translational Research:橋渡し研究)の逆方向のアプローチです。TRは「Bench to Bedside」で、基礎研究で見出した知見を臨床応用し患者さんに届ける、というものですが、リバースTRとはその逆で、『臨床現場での気付き』を研究の出発点とし、その背後にある病態を追求することによりバイオロジーの真理を見出そうとする、というアプローチです。このリバースTRのアプローチこそが医学・科学の発展に有用であると考えています(そのエピソードはこちら(準備中))。

基礎と臨床の融合

がん研は、がん患者診療数が日本一のがん研有明病院と、伝統的に基礎研究が強いがん研究所が同じ建物内にあり、両者が一体となった研究を展開しうることが最大の優位性であります。ただ、現在行われている共同研究の多くは、基礎研究者の発想に基づくTR研究であります。
丸山の夢は、がん研に真のリバースTR研究を推進できる『場』を作ることです。そのためには基礎と臨床が連携をするのではなく、(作成途中)

基礎と臨床の融合

研究に用いる主な手法

  • NGS解析 (主にNextSeqを使用, ATAC-seq, ChIP-seq, Cut&Tag, RNA-seq, targeted-resequencing, CNV解析, exome, WGS, hybridization capture)
  • 細胞や組織からのシングルセル解析 (dscATAC-seq(ddSEQ), dsciATAC-seq(ddSEQ+combinatorial indexing), scRNA-seq(Rhapsody / Chromium), scRamDA-seq(CellenONE))
  • 臨床検体からのオルガノイド樹立と解析(薬剤試験、遺伝子導入、イメージング)
  • 患者由来オルガノイドのマウスへの同所移植(fat pad, 膵臓)
  • データマイニング, bioinformatics
  • 分子生物学的解析 (核酸やタンパク抽出・定量、遺伝子導入、knockdown, ゲノム編集、エピゲノム編集)
  • 細胞生物学的解析 (flow cytometryによる分析、セルソーティング、シングルセルクローニング、各種kitを用いたアッセイ)
  • 免疫組織染色、蛍光免疫染色、イメージング
  • 細胞バーコーディング技術を用いた細胞系譜解析、その他バーコードを利用した独自の解析
  • 細胞外小胞に関する各種解析

シングルセル解析

がんを単なる塊ではなく「多様な細胞の集合体」として捉えます。腫瘍を構成する細胞ひとつひとつの「個性」を理解し、さらには細胞間で交わされる「会話」やそれらが作り出す「社会」の成り立ちを理解することによって、がんの本質に迫りたいと考えています。この研究の基盤となるのが、微量で貴重ながん検体を単一細胞レベルで詳細に解析する技術です。
これまで各種シングルセルオミックス解析技術の確立を試みてきました。ddSEQを用いたdroplet-baseのscATAC-seqやRhapsodyを用いたmicrowell-baseのscRNA-seq、CellenONEシングルセル分注機を用いたscRNA-seq等をルーチンで実施しています。combinatorial indexingとdropletを組み合わせたdsciATAC-seqも順調に稼働しています。また現在、scATAC-seqとscRNA-seqを単一細胞から同時に実施する手法や、single-cellのChIP-seq、単一細胞のlineage tracingなど最先端の高度な技術の確立にも挑戦しています。
ライブラリ作成からデータ解析まで全てラボ内で完結します。WET実験を行う人、DRY解析を行う人、その両方を一人で行う人がいますが、メンバー全員で情報やノウハウを共有し、皆がそのどちらも理解できることを目指しています。両者を深く理解することが、実験や解析の品質の向上や研究の深みにつながるからです。WETとDRYの連携ではなく、WETとDRYが真に融合した研究を目指しています。

シングルセル解析

臨床検体からのオルガノイド樹立と解析

臨床検体からのオルガノイド樹立と解析

腫瘍内の細胞の多様性を維持したまま培養するオルガノイド培養技術の確立を目指しています。患者さんの腫瘍の特徴を保ったままお皿の中で培養できるオルガノイド培養は、薬剤投与や遺伝子操作とシングルセル解析を組み合わせることで、さらに深い情報を得ることができます。この患者さん由来のモデルを深く解析していくことで、再発や転移において鍵となる分子や細胞を同定できると考えています。また、臨床的には、実際の患者さんのがんに対して、どの抗がん剤が効くかということを、患者さんが治療を始める前に、あるいは並行して、解析することが可能になることを意味します。すなわち、より高度な近未来のプレシジョン医療を実現するために、このオルガノイド培養技術の確立は必須であると考えます。
1年くらいの時間を要しましたが、がん研究所細胞生物部八尾先生らのご指導と、大学院生佐伯さんの並並ならぬ努力の甲斐があり、乳がん患者由来のオルガノイド培養の技術が確立しつつあります。現在では試薬や培地の調整、バンキングなど基盤体制が整っており、誰もがオルガノイド培養に挑戦できるような環境になっています。また大学院生古川さんの尽力により膵がん患者さんからのオルガノイド樹立も可能となっています。

研究テーマの紹介

【研究テーマ①】
乳がんエピゲノムの症例間での多様性

こちらは、エストロゲン受容体ER陽性乳がんの患者さんの生きた細胞を用いてエピゲノム解析を行った結果です。クロマチン情報に基づく層別化の結果、3つのグループに分かれましたが、この違いを解析してみると、ERシグナルの効き具合が違うことが分かりました。興味深いことに、免疫染色による臨床病理データでは、A群とB群のER発現量に差は認められず、これらの症例は通常の検査では区別できない一群であることが分かりました。

研究テーマ①

【研究テーマ②】
乳がんの腫瘍内のエピゲノム不均一性

研究テーマ②

さらにこれを単一細胞レベルで評価するために、シングルセルATAC-seq解析を実施しました。詳細は省略しますが、一部の症例では、がん細胞が明確に二つのグループに分かれており、これらの違いを解析すると、やはり、ERシグナルの効き具合が異なっていました。つまり、この症例では、一つの腫瘍内に、ERシグナルが効いているがん細胞と効いていないがん細胞が共存しています。このことがホルモン治療の抵抗性と関係している可能性も考えられましたが、これはあくまで推測であり、ここで認められる不均一性にどのような意義があるかは、分かりません。スナップショットの解析には限界があり、イベントの前後での比較をする必要があります。

【研究テーマ③】
生体内での乳がん細胞の適応と進化

それを実現できた例をお示しします。こちらは初診時すでに遠隔転移のある患者さんで、各種治療が行われましたが原発巣は増大し、原発巣と転移巣の2回、手術を受けられています。幸運なことに、私たちはこの3回の検体を解析する機会を頂きました。それらのシングルセル解析を実施すると、この患者さんの中で、乳がん細胞がどのように治療に適応し進化していったか、という様子が綺麗に見えてきました。本症例は初診時の段階で、強い腫瘍内不均一性を示していましたが、様々な解析により、ここに示すごく一部の細胞集団が治療に抵抗し生き残ったものと思われました。また腹膜転移の起源になったと思われる細胞も同定できました。治療前後の経時的な検体解析により、このように非常に貴重な情報を得ることができます。このような研究は、検体を提供してくださる患者さんのご協力があってこそ実現するものです。私たちは、患者さんやご家族のご協力に心から感謝するとともに、そのお気持ちを絶対に無駄にしないという強い想いを持って研究を進めています。

研究テーマ①

【研究テーマ④】
乳がん患者由来オルガノイドの腫瘍内不均一性

研究テーマ②

上記のような研究では多くの情報が得られますが、あくまで推測でしかありません。不均一性の意義を検証するためには、その不均一性をある程度保持した実験モデルの構築が必要です。そこで、私たちは、患者さんから得た生きたがん細胞を使用してオルガノイド株を樹立し、各種実験に利用できる技術を確立しました。各オルガノイドは、3から6種類の異なる細胞集団から構成され、腫瘍内不均一性を認めました。この細胞集団の特徴を解析すると、オルガノイド間で共通の特徴を示す細胞集団が見られる一方で、特定のオルガノイドに固有の特徴を示す細胞集団も同定できました。興味深いことに、進行乳がん患者さんに由来するオルガノイド株には、このような機能がよく分からないその株に固有の細胞集団が認められました。

現在進行中の研究テーマ(順次紹介していきます)

  • 乳がん患者由来オルガノイドを用いた炎症性乳がんの分子メカニズムの解明
  • ハイドロゲル培養法を利用した乳がん細胞が潜在的に有する脱分化能の評価
  • 転移性乳がんのマウスモデル作製と転移メカニズムの解析
  • 長期的なエストロゲン暴露が正常乳腺細胞に与える影響の解析
  • 膵がん患者由来オルガノイドの樹立とマウスモデルの作製
  • エピゲノム制御機構の破綻に起因するがん細胞の多様性獲得機序の解明
  • 腫瘍内不均一性の形成過程における染色体外DNAの果たす役割の解明
  • がん細胞とリンパ管内皮細胞との細胞間相互作用の多様性
  • 膵がんにおけるがん関連線維芽細胞の役割の理解
  • 多種臨床情報に基づく転移再発乳がんの層別化
  • 婦人科がんにおけるエピジェネティック制御機構の異常
  • 骨軟部肉腫におけるゲノム異常とエピゲノム異常の関連

様々な共同研究

研究費