がん研の優位性を最大限に活かし、臨床と基礎のど真ん中に立ち、真のトランスレーショナルリサーチ実践を目指します。
そのために、以下の二つの体制の構築を行います。
① 臨床検体や病理標本における興味深い事象を、分子レベルで高精細かつ迅速に検証できる体制(下図A)
② 上記1で得られた知見や仮説に関して、その意義やメカニズムを科学的に徹底的に検証できる体制(下図B)
1.2の体制を基盤として、新しい知見を見出し、臨床への還元の可能性を探ります。
研究テーマ1: がんにおける多様性・複雑性を正確に理解し、それを実際の診療に役立てるための実践的方法を模索する
がんは多様性の強い疾患群であり、根底にある異常や病態が腫瘍毎に大きく異なります。また同一腫瘍内においても構成細胞の不均一性が認められ、それが治療抵抗性に関与するとも考えられています。本研究テーマでは、がんにおける腫瘍間ならびに腫瘍内不均一性の病態と本質を正確に理解し、その知見を実臨床に活用する方法を見いだすことを目的とします。当面は乳がんの多様性を、特にエピゲノムの多様性に着目し、以下の3点を目標に研究を進めていきます。
① 実臨床の場においてがんのエピゲノム多様性・不均一性(heterogeneity)を正確に評価する方法を確立すること
② 各病態の詳細な分子メカニズムと生物学的な意義を理解すること
③ 実際の診断や治療法選択のプロセスにおいてそれらの知見を最大限に活用する方法を検討すること
研究テーマ2: がんの発生や進展の過程で生じるエピゲノム変化の意義・役割とゲノム異常との関わりを解明する
ゲノム異常ががんの根本的な原因と考えられていますが、がんではエピゲノムもまた常に大きく変化しており、何らかの役割を担っていることが想像されます。本研究テーマでは、がんの発生や進展の過程で生じる様々なエピゲノム変化の分子機構とその意義、ゲノム異常との関係性の解明を通じて、そこに共通する普遍性や脆弱性を見いだすことを目指します。各腫瘍におけるエピゲノムの役割を明らかにし、それを標的としたエピゲノム創薬へ発展させることも目指します。
○上記いずれにおいてもsingle cell レベルでの分子解析が有用と考え、そのための基盤技術の確立と安定した運用を目指します。
上記研究テーマに沿ったプロジェクト以外にも、多くの共同研究を行なっています。
1. トリプルネガティブ乳癌(TNBC)におけるエピゲノム多様性の解析(エピゲノムによるTNBCの層別化の試み)
2. ERシグナルの多様性とメカニズムの解析
3. HER2陽性乳癌における腫瘍内不均一性の解析(共同研究)
4. TNBCの一群で高発現を認める転写因子Aの機能的意義の検討
5. 慢性胃炎・胃がんで高発現する長鎖非コードRNAの機能解析(共同研究)
6. B型肝炎ウイルスRNAと相互作用する宿主因子の探索(共同研究)
7. 膵癌における反復配列RNAの発現機構の解明(共同研究)
1. NGS解析(主にNextSeqとMiSeqを使用, ATAC-seq, ChIP-seq, RNA-seq, targeted-resequencing)
2. single cell解析(主にddSEQ,C1を使用, scRNA-seq, scATAC-seq)
3. データマイニング, bioinformatics
4. 分子生物学的解析(RNA,DNA,Protein)
5. 細胞生物学的解析(knockdown, ectopic expressionによるphenotypeの変化)
6. in vitro transcription
7. レーザーマイクロダイセクション
NGSを駆使した網羅的な解析・分子プロファイリング、分子生物学的/細胞生物学的手法を用いた機能的スクリーニングや機能解析、それらを支えるバイオインフォマティクス、そして現場の臨床医・病理医が重要と考える疑問や課題と貴重な臨床情報や検体、これらが有機的に結びつき真に臨床に還元できるような研究を行うことを目指します。がんのheterogeneityの本質やエピゲノム変化の意義を追求する上記研究テーマは、このコンセプトに合致するものと考えます。分子細胞生物学者、生化学者、バイオインフォマティシャン、病理医、臨床医など、各分野のプロフェッショナルが集まり、議論し協力しあいながら、同じ目標に向かって研究を進めていく、がん研にそのような場を作ることができればと考えています。
1. なぜheterogeneityの正確な理解が必要なのか?
2. なぜエピゲノムなのか?
・・・作成中
がんのバイオロジーの本質を理解することにより、がん診療に貢献しうる知見を見出すことを目標としています。